キャラクター

そのまま思案顔になって
「ダメか」
などとつぶやくので、
何かまずいことでも聞いてしまったのかと不安になって
「どうした?」
と尋ねると
「手がヨモギくさくなってるかなって思ったんだけど、
なってなかった、やっぱり」
といきなり訳の分からないことを言い出した。
「ヨモギって、どういうことだ」
こいでいる自転車のスピードがゆるむ。
まひるは口元に添えていた右手を離すと
手のひらをこっちに向けた。
「さっき、河原にヨモギがいっぱい生えてたから手にあててたの。
ひょっとしたら匂いが、うつるかと思ってさ」

「どんな話、その本」
「えっと……ミサイル見つけるの、神社で。
山の中の神社」
「神社にミサイルがあんの!?」
いきなり「ミサイル」なんて言葉が出てきてぎょっとしたが、
子供の方がかえってそういう物に抵抗がないのかもしれない、と思った。
男の子じゃなくて女の子の事はよくわからないが。
「うん、ある」
僕は「どうして神社にそんな物が?」という意味で聞いたのだけれど、
らさはただそうこたえた(「あるの?」と聞かれたから「ある」とこたえた)。
その態度が面白いなと思っていたら、続けて
「地面に刺さってて、それでミサイルに、絵描くの。クレヨンで」と言った。
「その、主人公と友達が?」「あっ……、うん」
変な話だな。

「そのペットボトルのイカダと、川と鉄橋と、
鉄橋の向こうに入道雲が写ってて、その写真を見たとき、
こういう阿呆な人たちが現実に居たんだって、
すごく生々しく感じたんです」
誰かに言いたくて仕方がなかったことをようやく言えた、
というような、心底楽しそうな表情だった。
「お前は素直だよなあ」僕がそう言うと、困ったように笑った。
「そんなことないですよ。ひねくれてますよ、私」と手をぶんぶん振る。
男が女に向かって「素直な子」なんて言うとき、たいていそれは
「俺にとって都合がいい」というのとほとんど同じ意味だ。
でも佐見と喋っていると、こいつは僕の都合はもちろん
彼女自身の都合からも離れた場所に居て、
離れたものを基準にして話しているように感じられる。
僕はそれを「素直」だと思ったのだけれど、
同じことを別の人間なら「馬鹿」と言うかもしれなかった。

「そりゃ、休みくれなんて言えないよ、今」
仕事あるだけ恵まれてるんだよ、
は笑って、橋の欄干に、組んだ両腕のひじをついた。
「恵まれてる」と姉が言ったとき、何故か寂しいと感じた。
それは姉が、というよりも、
「恵まれてる」という言葉自体が寂しいんだと思った。
「再婚は考えてないの?」とつい口に出しそうになったが、
やっぱりそれ言うのは駄目だろと思ってやめた。
「うわっ、でかい」水面を見下ろしていた姉が突然高い声を上げて、
「なに、魚?」と僕もそっちを向いたけれど、
細長い灰色のものがフジツボの上を這って
暗い水の中にもぐっていくのだけが見えた。
「カニだよカニ。あんな大きいのここで見たの初めてかも」
はしゃいでいる姉の西日を浴びた横顔を見ながら、
さっきの「うわっ」という声もすごく嬉しそうだったなということに遅れて気付いた。

 

ゲーム画面

 

ダウンロード

対応機種:Windows PC

 

スタッフ

企画・シナリオ・スクリプト 山科 誠
グラフィック NnP (特殊装甲隊※当時

素材提供

楽曲
順不同


WindSphere
闇詠乃 功良の『つまらない曲だけど』
写真
順不同

※現在閉鎖
※画像・文章は全て開発中だった頃のものです。