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かくれんぼ
小学校2、3年生くらいの頃だったと思う。
近所に住んでいる幼なじみ(前に話した、オカルト好きの友人と同一人物です)の家でしょっちゅう遊んでたんだけど、
そこでたまに、かくれんぼをした。
友人の親は仕事で夜までいないことが時々あったから、そういう日は家中使ってかくれんぼをしてた。入っちゃいけない部屋以外は。
その友人の家は僕の家よりもずっと大きくて、
なにより2階まである、というのがその頃の僕には驚きだった。
だから本気で隠れるとけっこう見つけられなかったんだけど、
その中でも僕がよく隠れていたのは、居間の隣の和室にある箪笥の中だった。
あるとき、僕が隠れる場所を探していてふとその和室を見たら、箪笥の一番下の引き出しが半分くらい開いたままになっていた。
その中が空っぽだったので、ここに入ったら絶対見つからない! とひらめいた。
人の家の箪笥に入るなんて今だったら絶対できないけど、
そのころは友人とほんとに遠慮がなさすぎるくらい仲が良かったので、
何も考えずに中に入って横になり、手を伸ばして引き出しを閉めた。
引き出しの取っ手部分には鍵穴みたいな小さな穴が開いていて、そこから外が見えた。
真っ暗な中で体をぎゅっとちぢめ、その穴から部屋の様子をうかがって、
友人がその部屋に入ってくると息をひそめた。
その箪笥に隠れると全然見つからなかったから、友人はオニになると嫌な顔をするようになった。
それでも僕が「かくれんぼしよう」と言ったときは結構乗ってきた記憶があるから、
多分そいつも「今度こそ見つけてやる」みたいにも思ってたんじゃないだろうか
(もちろん、僕がオニになるときもありました。ジャンケンで決めてたはず)。
ある日、またそいつの家でかくれんぼをすることになって、彼がオニになった。
そいつが目をつぶって「いーち、にーい」と数え始めるとすぐに、僕はいつもの隠れ場所へ向かった。
箪笥の一番下の段を開け、
いつものように引き出しの中に横たわり、手を伸ばして閉じようとした。
が、なんでか引き出しはびくともしなかった。
何度も思いっきり引っ張って箪笥をがたがた言わせていたら、数え終わった友人が来て
「見っけ! なにやってんの」とすぐに見つかってしまった。
おかしいな、とか、もうバレちゃったからこの隠れ場所使えないな困った、とか思いながら箪笥から出たところで気付いた。
閉じるわけがない。
その箪笥は、どこにでもあるような机とかの引き出しと同じ構造だった。
取っ手のある前面部分と、僕が横になっていた底の部分はくっついている。
だから、自分が中に入った状態で前面の部分を引いても、引き出しが動くわけがない。
開けるときも同じで、内側からどんなに押したって引き出しが開くわけがない。
なーんだ、と思った後で、「いや今まで普通に隠れてたし!」と思い直した。
前に隠れたときはどうやっていたのか思い出そうとしたが、
特に何も意識せず引き出しを手で閉めていた記憶しかなかった。
その部屋に箪笥はひとつだけだったし、別のと勘違いしているということはありえない。
その後も何回か試してみたけれど、
その日を境にしてもう二度と箪笥に隠れることはできなかった。
その引き出しは絶対に、外側からじゃないと開け閉めできないタイプのものだった。
自分がどうやってそこに隠れることができていたのか、今考えても謎です。
* * *
「……なんで箪笥の一番下が空っぽだったのかな」
と、あなたは言った。
初出 2017/08/16 コミックマーケット90